らぴゅ海賊日誌
らぴゅの海賊日誌
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難破
アンボイナの北、テルナーテとアンボイナの中間に位置する半島ボゴシ。数年前までは香料貿易が行われていたが、今ではその流用性の不便さから閉島され、無人島となっている。島の前を船は通るものの、補給すらままならないので停泊する船もない。
島の西側海岸に、1隻の船が浮かんでいた。大きく傾いたその船は全長20Mほどの小型船で、3本のマストには大きな三角帆のラテン帆が取り付けられている。嵐にでもあったのか、船体はひどく痛んでいる。メインマストは半ばで折れ、甲板に転がっている。船首像の砕け具合が不気味さを一層引き立たせていた。 『うぅ・・』 か細い呻き声が甲板から漏れた。甲板に沈んでいる折れたマストの横で仰向けになっている女が出したようだ。簡素な綿シャツにくたびれた革パンツ。飾り帽子のようなバイコルヌには海水でベトベトになった銀髪が張り付いている。 女は目を細めながら空を仰ぎ見た。雲ひとつない快晴に、太陽の光が眩しい。思わず右手で顔をかざす。 『生き・・てる・・』 突然の嵐、帆をたたむのが遅れてマストが捥ぎ取れてしまった。自分めがけて落下してくるマストを見たとき、死んだ、と思った。 女は大きく深呼吸すると、ゆっくりと上体を起こした。背中とお腹が軋む。嵐の中、強風に振り回されて甲板を転げ回っていたのがきっと原因だ。 『ここ、どこだろう』 女は欄干に寄りかかりながら立ち上がると、辺りを見回した。昨日の昼頃にアンボイナを出港して、夜になる前に嵐に遭ったから、そう遠くへは流されていないはず。アンボイナ周辺は諸島が連なっているから、案外アンボイナの近くかもしれない。 『わぁ!セシル!目が覚めたんだね!』 船の下、浅瀬の方から男の声がする。セシルと呼ばれた女は、欄干から身を乗り出して、浅瀬を覗き込んだ。小船に乗った恰幅の良い男が、満面の笑顔でこちらに両手を振っている。 『マ・・マサール!あんた無事だったのね』 『うんうん、ずっと船室に隠れていたからね。メインマストが折れた時はさすがにびっくりしたけど・・』 マサールと呼ばれた男は、照れ隠しに頭を掻きながら答えた。 『あんた・・あの嵐の中ずっと船室に隠れてたの・・』 『うんうん、雨に濡れるの嫌だし、風で飛ばされたりしたら危ないもん。』 セシルの額に青い筋が浮かんできた。あの嵐の中、やるべきことを全て放棄して真っ先に逃げたと彼は言う。 言いたいこと殺りたいことはたくさんあるが、セシルは握り拳を作り、ぐっとこらえた。彼の性格はよく分かっている。いざ、という時は頼りになるが、それ以外は頼りにならない、マサールとはそういう・・ 『あんたね!あたしは死に掛けたよ!せめて帆くらい畳んでから縮こまったらどうなのよ!』 セシルは欄干から縄梯子を降ろした。あの顔をぶたないと気が済まない。 縄梯子を軋ませながら降りてくるセシルを見て、マサールはもしかして彼女は怒ってるかもしれないと思った。いや、でも悪いことは何もしてないし、ここまで考えてマサールは思った。「きっと、とても怖い思いをしたから気が起っている」、のだと。 『セ、セシル・・怖い思いをしたんだね・・。僕もわかるよ。あの嵐だもん。死ぬかもしれないって思うよね。』 セシルは縄梯子から飛び降り、小船に転がり込んだ。強い揺れで小船が上下に揺れ、マサールは体勢を崩した。しりもちをついた状態から、顎を垂直にあげてセシルを見上げる。・・・鬼ババがいる・・ 『か、顔が怖いよ・・?・・なんで両手でオールを持ってるの・・?・・どうして振り上げてるの・・え、ちょっと待っ』 乾いた殴打音が、辺りに気持ちよく広がった。 PR
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